京大再任拒否事件執行停止の申し立て第4号に対する却下決定
京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官 八 木 良 一
裁判官 飯 野 里 朗
裁判官 財 賀 理 行
「決定のうち、申立の趣旨に対する裁判所の判断の部分。
申立は任期の無効を主張したが、任期が無効なら、任命も無効になるとして、この主張を排斥したものである。それ以外は、五号事件と同じである。」(阿部)
京都地裁平成15年第4号執行停止申立事件
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三 申立ての趣旨1について検討する。
1 任期法は、この法律は、大学等において多様な知識又は経験を有する教員等
相互の学問的交流が不断に行われる状況を創出することが大学等における教育
研究の活性化にとって重要であることにかんがみ、任期を定めることができる
揚合、その他教員等の任用について、必要な事項を定めることにより、大学等
への多様な人材の受入れを図り、もって、大学等における教育研究の進展に寄
与することを目的とする(1条)、国立大学の学長は、その大学の教授や助教授
等の教員について、4条の規定による任期を定めた任用を行う必要があると認
めるときは、教員の任期に関する規則を定めなければならない(3条1項)、任命
権者は、前記の教員の任期に関する規則が定められている大学について、教育
公務員特例法10 条の規定に基づきその教員を任用する揚合において、次の各
号のいずれかに該当するときは、任期を定めることができる、と規定し(4条1
項)、その1号として、先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他
の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多
様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき、2号として、
助手の職で自ら研究目標を定めて研究を行うことをその職務の主たる内容とす
るものに就けるとき、3 号として、大学が定め又は参画する特定の計画に基づ
き期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき、と規定し、更に、任命権者は、
任期を定めて教員を任用する揚合には、当該任用される者の同意を得なければ
ならない(4条2項)と規定している。
2 前記一の事実関係によれば、申立人は、任期法4条及び京都大学教官の任期
に関する規程の各規定に従って、申立人の同意の下に、京都大学の再生研の任
期制の教授として、平成10年5月1日付けの本件昇任処分により任用されたもの
で、その任期は、平成15年4月30日までの5年間とされていたものであることが
明らかである。そして、任期法2条4号の規定によれば、「任期」とは、国家公
務員としての教員等の任用に際して定められた期間であって、国家公務員であ
る教員等にあっては当該教員等が就いていた職若しくは他の国家公務員の職
(特別職に属する職及び非常動の職を除く。)に引き続き任用される場合を除き、
「当該期問の満了により退職することとなるものをいう。」と明確に規定され
ているから、申立人は、当該期間が満了すれば任命権者の何らの処分や措置を
要せずに当然にその身分を失うものと解さざるを得ない。
3 ところで、'期限等の行政処分の附款については、その附款が行政行為の重
要な要素ではない場合においては、その附款のみについて重大かつ明白な瑕疵
があるときは、その附款のみが無効であるとして、その無効確認訴訟を提起で
きるものと解されるが、附款が行政処分の重要な要素である揚合においては、
その附款に重大かつ明白な瑕疵があることにより行政処分自体が無効になる場
合があるとしても、その行政処分と切り離して、その附款のみを対象とする無
効確認を求めることはできないものというべきである。
4 申立人に対する本件昇任処分の前記の任期の定めは、本件昇任処分の附款
ではあるが(以下、この定めを「本件附款」という。)、任期法の各規定や任期
法の趣旨、それに京都大学教官の任期に関する規程の各規定に照らしても、任
用行為に不可欠のもので、任用行為自体の極めて重要な本質的要索であるとい
うべきであって、同規程の各規定も、京都大学における任期制の教員の任用さ
れる職の研究教育組織、再任の可否等について明確に定めており、また、任期
のない任用と任期のある任用と明確に区別'されている。したがって、本件附
款は、本件昇任処分の本質的な要素であって、本件昇任処分の効力と切り離し
て本件附款のみの有効無効を論じたり、本件附赦のみの無効確認を求めること
はできないものと解される。
5 そうすると、本件附款のみの無効確認を求める本案訴訟の(4)請求を本案と
する申立ての趣旨1の執行停止の申立ては、結局、不適法といわざるを得ない。
四 申立ての趣旨2について検討する。
1 申立ての趣旨2は、本案訴訟の(2)諸求を本案とするもので、本件通知により、
被申立人から申立人に対し、平成15年5月1日から教授の地位を喪失させる行政
処分又は申立人の再任を拒否する行政処分があったことを前提としているもの
と解される。
2 しかしながら、前記判断のとおり、申立人は、平成15年4月30日の経過によ
り、 本件昇任処分の任期の満了によって、当然に再生研の教授の地位を喪失
するものであって、任命権者の何らかの行政処分等によって、この地位の喪失
の効果が発生するものではない。この関係は、任期法2条4号の前記の明文の規
定によっても明らかである。本件通知は、山岡所長がそのことを申立人に通知
しただけであって、それ以上の法的な意味はないものといわざるを得ない。し
たがって、 本件通知によって、、申立人が主張するような教授の地位を喪失
させる行政処分があったとも、再任を拒否する行政処分があったとも、いずれ
も到底いうことができないもので、そのような行政処分があったことを前提と
してその取消を求める本案訴訟の(2)請求も、結局、不適法といわざるを得な
い(継続任用されなかった任用期間の定めのある自衛官は任期満了により当然
に退職して自衛官としての地位を失うと判断した東京高裁判昭和58年5月26日・
行集34巻5号835頁、東京地判平成1年1月26日・判例時報1307号151頁参照)。
3 そうすると、(2)謂求を本案とする申立ての趣旨2の執行停止の申立てもまた
不適法といわざるを得ない。
五 なお、申立人は、甲40、41の意見書を援用し、本件昇任処分による任期中
に、少なくとも、申立人は合理的な手続によって再任の可否を判断してもらう
権利を有するというべきであって、恣意的な再任の拒否は、申立人の権利を侵
害するものである、再任用の拒否は、法令に基づく再任申請権の侵害か、又は
学間の自由の恣意的侵害防止の権利を侵害するものとして、教授を失職させる
不利益処分と解することもでき、また、再任申請の拒否処分と解するとしても、
その処分の執行停止の効力として、改めて適法な再任拒否決定がされてから6ヶ
月間は失職しないという実体法上の効果が発生すると解釈すべきであるなどと
も主張する。
確かに、任命権者は、任期制の教員から再任審査の申請があった揚合には、
所定の手続に従って公正かつ適正にこれを行わなければならないものというべ
きである。しかし、それは、任命権者や手続に携わる者の職務上の義務であっ
て、再任審査の申請をした者に対する関係での義務とまではいえないというべ
きである。また、法律上は、任期制の任用による教員は、任期満了の後に再任
してもらう権利を有するものではないと解され、いずれにしても、現行法上、
本件通知により行政処分があったと解することはできないことは前記のとおり
であり、結局、申立人の上記見解は、いずれも採用できない。
六 結論
よって、申立人の本件申立ては、いずれも、執行停止の要件を充たさないも
ので却下を免れないというべきであるから、その余の点について判断するまで
もなく、主文のとおり決定する。
平成15年4月30日
京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官 八木良一
裁判官 飯野里朗
裁判官 財賀理行
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