国公私立大学教員有志から 京都地方裁判所第3民事部部裁判官への要望書阿部泰隆氏コメント京都地裁作成 尋問調書7338 visits since 2004.3.13
京都地裁文書
本人調書

     事件の表示 平成15年(行ウ)第8号
     期日  平成16年2月18日午前10時20分
     氏名  井上一知
     ・・・・・・

原告代理人(神崎)

履歴書(調書末尾添付)を示す

         井上先生の経歴はそこに書かれているとおりですか。

           はい,そのとおりです。

        先生はどのような研究を専門とされているのですか。

          私は,膵臓を初めとする主に消化器外科に関する研究と,再生医療全
          般に関する研究を専門としておりますが,最近は特に糖尿病に対する
          新しい再生医療開発研究に力を注いでおります。

甲第6号証を示す

       井上先生が本件ポストに応募されたのは,この公募に対して応募されたもの
         ですか。

           はい,そのとおりです。

     そこではどのような職務のポストが公募されていたのですか。 

      臨床応用可能な代謝系人工臓器作成をめざす研究についてです。

      そのテーマは研究テーマとして限定的な内容のテーマだったのですか。

          いいえ,これは決して限定的ではありません。非常に奥の深い,範囲
           の広い,包括的なテーマであります。

         この公募に対してどのような研究をされるつもりで先生は応募されたのです
         か。

           私の専門としております,まず膵臓の人工臓器作成に関する研究に主
           カを注ごうと思っておりました。それで,何とか時間的余裕を見つけ
           て,同時に肝臓の人工臓器,さらには腸管,それから肺,そういうよ
           うな臓器に対しましても研究を及ぼしたいというふうに考えておりま
           した。

         そのような研究は短期間で成果を上げられるような内容の研究なのですか。

           いいえ,決してそうではありません。これは非常に奥の深い,幅の広
         い研究でありますから,非常に長期間の目標を持ってやらなければい
           けない研究であります。一定の着実な成果を毎年積み上げて,そして,
       少なくとも10年以上はかかるテーマであります。     

       先生が本件ポストに応募されたとき,このポストが任期つきのポストである
         ということは示されていましたか。                   

           いいえ,全く示されていません。               

      今見ていただいている甲第6号証のどこにも任期つきであるということは書
        かれていませんが,公募の際に口頭の説明などで任期つきだというような説
      明はありませんでしたか。

         いいえ,全くありません。         

         応募の後,選考手続で面接はありましたか。

           はい,ありました。

      その面接の際には任期つきポストであるという話は出ていませんでしたか。

           そういう任期制に関する話は一切出ておりません。

甲第20号証の2の2ぺ一ジを示す

         そこに,平成10年4月に京都大学で任期制教官である教授を募集されまし   
         た,という記載がありますが,被告側ではこういう書面のささいな表現をと
         らえて任期制教授とわかっての応募だったというふうに主張しているんです
         けれども,実際そうだったのですか。      

           いいえ,それは全く違います。公募のときには任期制ではない普通の
           教授の応募であります。これは私が教授に採用内定があった後の話で,
           任期制が導入されたのは4月9日でありますから,ここに4月と書い
           てありますように,そのときの話であります。 

         とすると,結局,先生はこのポストに応募された際には任期つきポストであ 
         るという認識はあったのですか,なかったのですか。    

         そういう任期制という認識はもう全くありません。        

        そうしますと,この本件ポストが任期制ポストであることは先生ご自身はい
        つ知られたわけですか。

           それは私が教授に内定して,平成10年4月に引っ越し等で再生研に
           寄っているときにでありますから,4月に入ってから,そして同意を
          とられる4月20日までの間であります。

         それはだれからどのような状況で説明を受けられたんですか。

           引っ越しの準備等でたまたま再生研に立ち寄ったときに,偶然に当時
           の松本事務長にお会いしまして,そのときに簡単な説明を立ち話で受
           けただけです。

         その事務長の立ち話での説明というのはどういう話でしたか。

           私の普通の教授として採用されたポストは任期制になるという話でし
           た。

         そうすると,そのとき任期つきであることを初めて聞かされたわけですか。

           そうです。そのときは本当に初めてです。

         それを聞いて,先生はどのように思われましたか。

           私自身,任期のない普通の教授として採用内定していましたものです
           から本当に驚きましたが,また,それでなぜかなというふうに不思議
           に思いました。

         そう思われたのであるならば,事務長に任期制教授という制度について説明
         を求められたわけですか。

           はい。

         その結果,どういうふうな説明を受けられましたか。

           そのときに聞いた話によりますと,京都大学ではいくつかの部門で任
           期制が導入されることになりました。任期制といっても,再任されな
           い部門,あるいは1回だけ再任される部門,あるいは何回でも再任さ
           れる部門があります。それで,私のポストは5年任期ではありますが,
           再任が可で,とにかく普通にまともに仕事をしておれば定年まで引き
           続いて何回でも再任されるという簡単な説明を受けました。

         そのときの事務長の説明では,先生のポスト以外に任期制になるようなポス
         トがあるというような説明でしたか,それともこのポストだけが任期制にな
         るという話でしたか。

          そのときの事務長の説明によりますと,今再生研全体で教授あるいは
          助教授にも幅広く任期制を導入しようというふうな議論が進んでて,
          そういう方向で動いておりますということをおっしゃっておられまし
          た。

        そういう説明を受けられて,あなたはどうされたわけですか。

          とにかく事務長からの説明で,普通に仕事をすれば再任されるという
          ことでしたので,特にそれ以上深く考えずにそのままにしておりまし
          た。

甲第30号証を示す

        この書面には,このポストが任期制法に基づく任期制教授であることは知ら
        されていました,という記載があるわけですけれども,被告はこの文章をと
        らえて,任期制教授と知って応募したんではないかというようなことも主張
        しているんですけども,いかがですか。

          いえ,それは全く見当違いです。ここに書いてありますように,その
          次の文章ですが,その際に受けた説明により,任期は5年だが,原則
          として再任されると理解します,と書いてありますように,これはあ
          くまでその4月に任期制が導入されたことの話でありまして,先ほど
          説明しましたとおり,事務長から聞いた話のことでありまして,公募
          に対する応募のときにはもちろん任期制ではありません。

        今回の裁判で被告が主張しているように,任期満了に伴い当然失職するとか,
        再任手続は新任手続と同じですよというような,そういったたぐいの説明は
        だれかから聞かれたことはありますか。

          いいえ,任期が満了すれば当然に退職するとか,あるいは再任の手続
          というのは新規採用と同じであると,そういう説明は一切受けており
          ません。

原告代理人(尾藤)
乙第1号証を示す

         今お手元に示しました同意書がまずどのように作成されたか,簡単に言って
         いただけますか。

          これは平成10年4月20日に当時のマツモト事務長が,私が新しい
          部屋でいろいろ引っ越しの準備をしているときに,突然に非常に慌て
          て事務官もう1名と一緒に大急ぎで入ってこられまして,今すぐにこ
          の任期に関する同意書を書いてくださいということで説明がありまし
          た。それで,とにかくあすに会議があると,それで,あすの会議にも
          う間に合わさなければいけない,そうしないと私の教授の辞令が出ま
          せんので,という非常に急いだ話がありました。非常にそういうこと
          でせかされました。

        そういう経過で書いたものだということですね。

          はい,そのとおりです。

        この同意書の文面は先生がお考えになったものですか。

          いえいえ,とんでもありません。

        だれが示したものでしょうか。

          それで,事務長はそれからまたいきなり部屋を本当に地響きのするよ
          うな音で飛び出されまして,それで,また大急ぎで戻ってまいりまし
          て,こういう見本のようなものを持ってこられました。そして,この
          とおりに書いてくださいというふうにおっしゃいました。

        そう言われて,先生はどう思われましたか。

          私は本当に同意書とかそういうことは一切知りませんでしたので,い
          きなり言われまして,非常に驚きました。しかし,いずれにしまして
          も,手続上必要なものであろうということはその場のあれでわかりま
          した。

        それで,それに書かれて,事務長はどうなりましたか。

          それで,それから事務長は,京都大学の規則を示しまして,それで,
          ここに書かれてありますように,私のそのポストは5年任期ではあり
          ますけども,再任可であります。とにかく普通にまともに仕事をすれ
          ば定年まで引き続いて何回でも再任されます。とにかくあしたの会議
          に間に合わせないといけないということで,非常にせかされました。

甲第3号証を示す

        見せられたのはこの大学規定でしょうか。

          はい。この大学規定でも,この2枚目の表のところの部分だけです。

        2枚目の別表の部分だけを示されたということですね。

         はい。

       この別表部分では再任可であることが明示されてますね。

         はい。

       それで,先生は同意書を書かれたわけですね。

         はい。とにかくあしたの会議に間に合わさないといけないというふう
         に非常にせかされました。それで書きました。

       翌日の会議とはどんな会議のことだったんでしょうか。

         それは再生研の協議員会のことであります。

甲第31号証を示す

       今手元にお示ししている4月21日の協議員会のことですね。

         はい,そのとおりです。

       この当時の所長はだれだったですか。

         山岡義生所長です。

       この協議員会には先生は出席されましたか。

         いいえ,私は教授の採用内定は決まっておりましたが,まだ教授では
         ありませんので,出席する資格がなく,出席しておりません。

       この協議員会の書面を見ますと,もともと再生研の本件ポストは任期法の4
       条1項1号に基づくあるものであるとされていたものが,ここでの研究は5
       年程度で具体的な成果を得て終了することを基本とし,原則として5年の時
       限を課すと,こういうふうに書いてあるんですけれども,このような扱いに
       するような説明は事前に先生にはありましたか。

         いいえ,同意のときには再任が原則というふうに理解しておりました
         し,これを見ますと,再任が原則ではないというふうな申し合わせに
         なっております。こういうふうな説明はありません。

       そうすると,ここでなされた協議員会の申し合わせの内容というのは,乙第
       1号証の同意書を作成したときの説明とは全く違っているわけですね。

         はい,今申しましたとおり,全く正反対とも言えると思います。

       それで,先生はいつごろどういう経過でこの4月21日の協議員会の申し合
       わせの内容をお知りになったんでしょうか。

         これは,今回の裁判で非常に問題となってます私に対する再任拒否事
         件があったのが平成14年12月19日ですが,そのころにばたばた
         していますときに,私の教室の助教授の角昭一郎先生に事務局から入
         手されたものを見せていただきまして,知りました。

       そうすると,非常に大事な4月21日の協議員会の内容の書類というものあ
       るいはその内容について,先生がこの書類を渡されたりあるいは説明を受け
       たりしたということは直接にはないんですね。

         ええ,これを正式に示されたあるいは知ったということは一切ありま
         せん。

乙第1号証を示す

       この文面によりますと,任期制法の4条1項1号に基づくという文言がある
       わけですけれども,この任期制法の4条1項1号については事務長さんから
       何らかの説明はありましたか。

         いいえ,この法律に関する説明は一切ありません。

       ここには,任期を平成10年5月1日から平成15年4月30日までとされ
       ることに同意します,という文言がありますね。

         はい。

       これを根拠として被告さんの方は,任期が切れたら終わりであるとか,以後
       の手続は新規採用の手続になるとか主張されているわけですけれども,その
       ような説明はこの同意書をつくったときにはありましたか。

         いいえ,任期が切れたら終了するとか,再任の手続は新規採用になる
         というような説明はもちろん一切受けておりません。

       この書面を見ますと,形式的にあたかも任期が平成15年4月30日までと
       されるような記載になっているわけですけれども,この任期が到来すれば教
       授を退任することになるという説明はあったんでしょうか。

         いいえ,とんでもありません。全く違います。普通にまともに仕事を
         すれば引き続いて定年まで何回でも再任されるという話で強い説明が
         ありましたし,私自身普通以上に,患者さんの治療の開発研究があり
         ますので頑張るつもりでしたので,頑張って再任されるという認識が
         ありました。ただ,とにかくあすの会議に必要だということで,非常
         にせかされて書いたわけであります。

       当然再任されることを前提として理解していたというふうにお聞きしていい
       ですね。

         そのとおりです。私はもう普通以上に頑張るつもりでしたので,当然
         その成果が評価されて再任されるものというふうに信じておりました。

       再任に関して山岡前所長が何らかの発言をその後していたということはあり
       ますか。

         はい。私が私の仕事に対する評価を受けるために再任申請,これはも
         う再生研究所の内規で決まっておりますが,再任申請をした平成14
         年4月以降の教授会で山岡前所長は,何度か私の任期制のポストは再
         任が前提であるという発言を繰り返しておられました。

       具体的にいつどのような場面で発言をされたのかというのを少し説明してい
       ただけますか。

         それで,まず平成14年7月の教授会,外部評価委員会の一月前です
         が,来月に私の再任に関する外部評価委員会が開かれます。私の任期
         制の教官のポストは再任が前提ではありますが,内規に従って8月に
         外部評価委員会が開かれますので,その結論に基づいて私の再任が決
         定されることになります,とおっしゃってました。それと,外部評価
         委員会が終わった後の9月の教授会でありますが,そのときも,先月
         の8月に外部評価委員会が終わりました,私のポストは再任が前提で
         はありますが,内規に従って8月に行われました外部評価委員会の結
         論に従って,来月に行われます協議員会で再任の可否が決定されます
         ということをおっしゃっておりました。そのほかにも何度か私の再任
         手続に関して私の任期制教官のポストは再任が前提であるという旨の
         発言を繰り返しておられました。

甲第24号証の2枚目を示す

       再任拒否がされた際の協議員会の議事録ですが,議長すなわち山岡前所長か
       ら経過説明がありまして,その説明ですと,任期制教官の再任審査は再任を
       前提とするものではないというふうに経過説明,そういうものがあって,そ
       の内容が確認されているという議事録になっていますね。

         はい,そのとおりです。

       さらに,審議で議論しているのは,今後5年間でのプロジェクトのサイエン
       ティフィックな面と実現性,将来性であり,また研究所の社会的責務の対応
       等であること,それも確認されていますね。

         はい。

       そうすると,この経過内容と確認内容というのは,先ほど先生が言われた同
       意書を書く際の説明内容と合致しているんでしょうか。

         いいえ,全く正反対だと思います。

       同意書をとる際にはどういう話でしたかね。

         同意を書くときには,再任可で,普通に仕事をすれば再任されるとい
         うことで再任前提再任原則というふうに理解しておりましたが,これ
         を見ますと,再任が前提でない,再任が原則でないということで,違
         った手続になっていると思います。

       先生が今のポストにつかれる前に,例えば5年のプロジェクト型であるとか
       あるいは原則として再任しないという説明を受けていれば,そのポストにつ
       くことについて同意はしていましたでしょうか。

         いいえ,とんでもありません。そういう説明があれば当然同意はいた
         しておりません。

甲第58号証を示す

       これは平成15年7月25日の再生研のホームページに掲載された中辻新所
       長の文章なんですが,その中で任期制の運用方針について,この任期制の運
       用に関しては再任を全く認めない再任不可ではありませんが,運用方針につ
       いては研究所設立時に定められた再生医科学研究所再生医学応用部門に関す
       る申し合わせ(平成10年4月21日協議員会決定)が存在し,それによれ
       ば,云々,というふうにありますね。

         はい。

       これをごらんになってどうお考えになりましたか。

         これは私が同意のときの説明では辞任が前提,再任が原則ということ
         でありましたが,これを見ますと,再任が原則でないというふうな全
         く違った運用がなされているというふうに思います。

       このような運用がなされるとわかっていれば任期制に同意していましたか。

         いいえ,このような運用がなされておれば,もう絶対に同意してませ
         んし,もしそういうような運用がなされることがあれば,これは本当
         に,言葉は悪いかもしれませんが,だまし討ちであり詐欺だというふ
         うに,思います。

       先ほどお話がありました山岡前所長の発言,それから同意書作成の際の経過
       に関連してお聞きします。山岡前所長は先生の再任には積極的だったんでし
       ょうか。

        いいえ,全く反対であります。私に突然辞任の要求,再任申請の取り
        下げを強要して,私の再任を妨害しようとしたりしましたし,また,
        東京大学名誉教授の出月先生にお伺いしたところによりますと,外部
        評価委員会にみずから圧力をかけていろいろ妨害工作をして,そして
        外部評価委員会の結論を私に不利なように修正させようといろいろ画
        策したということを伺っております。

      再任申請の取り下げを強要したというのは,端的に言うと,どういうことな
      んでしょうか。

        私の再任が決まるべき平成14年10月17日の協議員会を延期しま
        したし,また,先ほどお話ししましたが,辞任要求の件ですが,平成
        14年11月15日のことでありますが,当時の山岡前所長は私を突
        然事務長室に呼び出しまして,事務官にテープレコーダーを記録させ
        る状況下で2人の教授がそばにおられましたが,いきなり,みずから
        辞任してください,このままでは再任ができない,ということをおっ
        しゃって,私に辞任の強要をされました。

乙第3号証の47ペ一ジ及び48ペ一ジを示す

        47ペ一ジの下のあたりですが,ここには,再任とは再びその職に採用する
        ということであることから,通常の採用手続に基づき選考を行うことになる 
        ので,採用時にこの旨本人に明示しておくことが求められる,というふうに
        されておりますね。

          はい。

        そういう内容の明示というのはありましたか。

          この任期の内容に関する説明というのは,私の採用時におきましても,
          あるいは採用後におきましても,だれからも一切説明は受けたことは
          ありません。

        そうすると,任期が切れたらもう終わりだとか,再任は新規採用と同じ手続
        になるとかいうような説明はあったんでしょうか,なかったんでしょうか。

          任期が切れたら終わりであるとか,あるいは再任の手続は新規採用と
          同じであるというような説明はもちろんありません。         

        今お話のあったような説明を受けていたならぱ,先ほど示しました同意書と
        いうのはお書きになりましたか。

          それはもう絶対に書くはずがありません。

        そういう話を聞いてたとすれば,教授への昇任についてはどういうふうにお
        考えだったんでしょうか。

          もし仮にそういう説明があったとすれば,私は当時教授採用が普通の   
          教授として内定はしてはおりましたが,私自身,その内定をみずから
          取り下げます。

原告代理人(安保)

        同意書をとられた前提として,普通にまともに仕事をしていれば再任される
        という話だったということでしたのでお聞きしますが,この5年聞,先生の  
        研究活動としてはどうだったと考えられますか。              

   私の研究は非常に高い評価を受けまして,多くの研究費,年間毎年三,
   四千万円から六,七千万円の研究費が当たりまして,特に科学研究費
   の中でも一番難しい基盤研究Sというのが導入されたときに,京都大
   学で初めて私と農学部の教授2人が採用されました。それも20名近
   くいた研究生,大学院生と共同研究に励んだ結果,糖尿病に対する治
   療開発研究がかなり業績,成果を上げることができました。そして,
   国際特許も多く出願することができました。これから本当に研究所と
   して大事なときであります。そして,そういうことが評価されて,日
   本医学界の最高峰と言われてます,日本医学会100周年記念シンポ
   ジウムに日本医学会から7名が代表されて,外科の分野では私1人で
   すが,選ばれました。

甲第27号証の4枚目を示す

 目次を示します。これが日本医学会100周年記念シンポジウムの報告集の
 目次でございますね。

   はい,そのとおりです。

 ここで,「21世紀の再生医療一現状と展望ー」ということで,先生がお話を
 されているということでしょうか。

   はい,そのとおりです。

甲28号証の1を示す

 これも,この5年間に先生が研究された内容が各メディアに掲載された内容
 ということで間違いございませんでしょうか。

   はい,そのとおりです。

 それでは,同意書をとられたときに話が出ていた, 普通に仕事をしているか
 どうかという評価に関してなんですが,この再任審査に当たっての研究所の
 申し合わせ及び内規というものがあるんですが,ここでその評価の基準,項
 目を示しているわけですね。

   はい。

甲第7号証及び甲第8号証を示す

 甲第7号証の申し合わせの2項,それから甲第8号証の内規の3条によれば,
 1,任期中の学術的業績, 2, 任期中の社会的貫献, 3,学内の教育及び行
 政への貢献が評価項目にされていますか。

   はい,そのとおりです。

甲第11号証を示す

 これが外部評価委員会が先ほどの評価基準に従って先生の活動を評価した報
 告書でございますが,この報告書の記載内容について簡単にご説明いただけますか。

   まず,私の研究,糖尿病に対する治療開発研究が高い評価を受けまし
   た。そして、研究業績が国際レベルに十分に達しているという高い評
   価を受けました。また,国内外の学会理事,特に海外の一流誌の編
   集委員をしているということも非常に高い評価を受けました。さらに,
   日本の再生医療,特に21世紀の医療について非常に大切になってま
   いります再生医療にとって非常に大事な日本再生医療学会の設立にか
   なり中心的に関与さしていただいて,初代の会長として非常に大成功
   におさめて,社会的貢献が大きいということも非常に高い評価を受け
   まして,外部評価委員の先生方全委員が一致して期待を持って私の再
   任に賛成していただきました。

 ところで,山岡前所長が外部評価委員会の評価に介入したという話を聞いて
 おられますか。

   はい。これは先ほど申しました出月康夫東京大学名誉教授にお伺いし
   た話でありますが,外部評価委員会にみずからいろいろ圧力をかけて,
   私の再任を妨害しようとしたことを伺っております。特に外部評価委
   員会の最初の結論,3回ほど変わってますが,最初の結論で,全委員
   が一致して再任可に賛成するという結論,そういうシンプルな結論が
   あったのが,いろいろな文章を加えまして,特にその中でも,特にそ
   れを不可とす争者はなかったというふうな表現にかえようとして,そ
   れを外部評価委員会,特に出月先生に指摘され,それが失敗に終わっ
   たということで,出月先生は私自身に,公正な所長としてこれは本当
   にスキャンダラスな行為であるということをおしゃってました。

甲第32号証の2の3枚目を示す

 これは私たち弁護団からの照会書に対する出月先生の回答書ですが,ここに
 は,先ほどの外部評価委員会報告書の第一次ドラフトでは全員が再任に賛成・
 したとなっていたが,第二次ドラフトでは再任に反対はなかったと表現が変
 更されていた,微妙に表現のニュアンスが異なるため,外部評価委員会の結
 論のとおり,全員が再任に賛成したに戻すべきであることを出月先生が指摘
 して, 委員長に第二次ドラフトを返送したと記載してありますね。

   はい。

 これが先ほどの介入ということを出月先生が示唆されているということなんですか。

   そうです。そのとおりです。

 外部評価委員会の報告書を受けて,再生研の協議員会ではどういう議論がな
 されましたか。

   外部評価委員会の評価に基づいて,内規に基づきますと私は再任され
   るということで,再任される予定でありました平成14年10月17
   日の協議員会がなぜかしら強引に延期されたということであります。

 10月17日の協議員会での再任可否決定が延期されたということですか。

   はい。

 その日にその可否を決定できない理由が何かありましたか。

   理由なんて全くありません。

 何か延期した理由として,山岡前所長は, 外部評価委員会の報告内容に関連
 して,先生に対する質問をする必要があるということを理由に上げたようで
 すが, そういうことは正当なのでしょうか。

   いいえ, それは私は正当だとは思いません。そのとき山岡前所長は外
   部評価委員会の結論に反論を書きなさいと私におっしゃいました。私
   は外部評価委員会の先生方は超一流の専門家が集まって私に全員が再
   任に賛成されたわけです。反論を書く必要なんて全くありません。そ
   れは不思議でした。

 その次に開かれた協議員会が11月12日なんですが,この日に先生として
 は再任が決まると思っていたのでしょうか。

   先ほど申しましたが, 私の分野に関する一流の専門家が一日割いて北
   海道からもいろいろ来られて, そして, 本当に真剣な議論をされて,
   私も出席して,評価していただいて, 外部評価委員会の先生が再任可
   ということで結論を出され, 内規では当然外部評価委員会に基づいて
   再任されるということで、当然私はそれを信じておりました。

 11月12日の協議員会では決まるというふうに思われたんですか。

   だから,当然に決まると思っておりましたが,私がそのときかなり強
   引に退席させられまして, そして私のいないところで再任審議が行わ
   れました。

 その結果,その協議員会はどうなったという報告がありましたか。

   その終了後に山岡前所長から, 理由説明は全くなく,再び継続審議に
   なったという簡単な一言をいただきました。

 その日の協議員会で初めて取り上げられたのが, いわゆる医の倫理に関する
 問題だったということですか。

   はい。それは少し後でわかりました。

 医の倫理に関する問題とはどういう問題ですか。簡単で結構ですからご説明
 ください。

   これは京都府立医科大学の外科の教授で現病院長の山岸先生と助教授
   の萩原先生からご依頼のあったお話でして,苦しんでおられる患者さ
   んを助けたいので,膵臓から細胞を分離して,そしてその分離した細
   胞を患者さんご自身に返してあげる,いわゆる自家膵島細胞注入療法
   をしたいので,膵臓から細胞を分離していただきたいというご要請が
   ありましたので,京都府立医大と私どもが合同で再生研の倫理委員会
   に申請したという,それだけのことであります。何の問題もあろうは
   ずがありません。ところが,山岡前所長は,これをいかにも医の倫理
   に何か問題があるというふうな話を一生懸命誇張してつくり上げて,
   それを私の再任拒否の理由にしようとしたことが明らかになっており
   ます。

 その医の倫理に関する問題なるものが先生の再任の可否に影響を及ぼすよう
 な問題だったのかどうかについて,これはどう考えたらいいんでしょうか。

   これは全く根拠のない話であります。出月康夫東京大学名誉教授から
   お伺いした話ですが、山岡前所長はその平成10年11月にわざわざ
   東京まで出向かれまして,出月先生をホテルに呼び出されまして,そ
   してこの医の倫理なる問題を取り上げて,そして出月先生に私に対し
   て再任申請の取り下げを説得してほしいというふうに頼まれたそうで
   す。出月先生は膵臓移植に関しましては世界で初めてタッチされた先
   生でもありますが,膵臓移植,膵島細胞移植に関する世界のみならず
   日本の第一人者でもありますし,また特に医の倫理に関しては非常に
   ご造詣の深い先生ということで有名であります。その先生から見ても
   この医の倫理なる問題には何の根拠もない,何の問題もないというこ
   とが一目瞭然におわかりになりますので,即座に山岡前所長の要請を
   一蹴されたそうであります。

甲第32号証の2の5枚目を示す

 これは先ほどの我々弁護団が出月先生に差し上げた照会書に対する回答です
 が,今先生がご証言された内容がここに出月先生の文章として明記されてい
 るわけですか。

   はい,そのとおりです。

甲第21号証を示す

 これは山岡前所長が平成14年12月5日に協議員あてに出された文書なん
 ですが,甲第21号証によれば,平成14年11月15日までに当時の山岡
 所長が電話で全協議負から再任申請の取り下げを井上先生に対し求めること
 の同意を取りつけたという文章がありますね。

   はい。

 それであれば,先ほどの11月の協議員会の後,次の12月に開かれる協議
 員会の前に既に再任不可ということで協議員会の根回しが終わったというこ
 とになりませんか。

   そうです。再任不可でそういうことを行って,そして再任不可の流れ
   をそこでつくってしまったということを伺っております。

 それで, 次に開かれた12月19日の協議員会の議論はどうなりましたか。

   それで,その次の12月19日の協議員会でありますが,11月12
   日に問題になったとされる医の倫理の問題に関する私に対する釈明要
   求は全くありませんでした。議題にも上りませんでした。そして,私
   が話をしようとすると,何の説明もする機会も与えられずに遮られま
   して, 強引に退席を求められました。前回もそうですが,その後,私
   のいないところで再び長々と議論が行われたようであります。それか
   らしばらくして,その再任が不可になったという通知が来たのであります。

 それでは, その再任不可とされた理由について何らかの説明はありましたか。

   いいえ,再任不可の理由は全く説明はありません。それで,その12
   月19日の協議員会の議事録をかなり後で知ったわけですが,11月
   12日に取り上げた医の倫理なる問題は一切議事録では書いてありま
   せん。突然と消えております。なぜかわかりません。それで,当初そ
   の議事録を読みますと, その深い意味といいますか,よく趣旨がわか
   りませんでしたが, 平成14年の今の再任拒否のころに教室の角先生
   からお話を聞きました平成10年4月21日の協議員会の申し合わせ,
   全くその違う運用をなされているという申し合わせ,あるいは,再任
   拒否が行われた後の平成15年7月25日に中辻所長によって公開さ
   れた任期制教官に関する情報公開,それも全く違った正反対の再任を
   原則としないというふうになっておりますが,それらを照らし合わせ
   ますと,同意のときの説明あるいは理解,再任は原則であるという理
   解,説明と全く異なって,任期が来れば再任されないと,恐らくそう
   いうような運用に変わってしまったということが示されていると思います。

甲第58号証の1ページを示す

 これが平成15年7月25日に現再生研所長の中辻所長が書かれた文章です
 が, この1枚目の下の方の1項,再生医学応用研究部門における任期制の運
 用方針と題する部分を読みますと,この任期制の運用に関しては再任を全く
 認めない再任不可ではありませんが,運用方針については,研究所設立時に
 定められた「再生医科学研究所再生医学応用部門に関する申し合わせ」(平
 成10年4月21日協譲員会決定)が存在し,それによれば,「ここでの研究
 は5年程度で具体的な成果を得で終了することを基本とし,原則として5年
 の時限を課す」と書かれています,とあるんですが,このような基準で再任
 審査が行われることは知らされていなかったのですか。

   はい。今申しましたとおり,再任が原則という理解のもとの同意であ
   りますので, これは全く正反対で,再任を原則としないという,全く
   異なった正反対の運用がここで行われているというふうに思います。

 以上お聞きしたように, 客観的な評価の手続が全く無視されて再任審査が行
 われるということを同意書作成の際に予測しましたか。

   いいえ, 全くしておりません。同意書のときには何らかの客観的な評
   価は受ける, 再任審査を受けるという認識はもちろんありました。と
   ころが,客観的な評価, しかも外部評価委員会の客観的な評価を受け
   て再任可ということが決まりながら,なおかつそれが恣意的に拒否さ
   れると, そういう事態は到底想定しようもありません。

被告ら第2準備書面を示す

 まさに詐欺的な手法で同意書を書かされたということになるわけですが,今
 回被告から提出された第8号事件の第2準備書面に,仮に当該同意がなされ
 るまでの手続が詐欺的なものであって, 同意が本人の真意によるものではな
 かったとしても,なにゆえ本件昇任行為に付された附款のみが無効になるの
 か全く不明である, という主張があるんですが,これに対してどのようにお
 考えになりますか。

   私はこの被告の表現を見て, まさしく目を疑いました。いやしくも神
   聖なる大学で詐欺的な行為が行われても,それが真意でなくても同意
   さえとれば何をしてもいいと,意のままであるというふうな表現にな
   つております。普通, 我々一般的な社会常識のある人間はそういうこ
   とは書きません。この神聖な大学で詐欺的なものが行われてもだれも
   実際にはそれを問題にしなかった, あるいはとがめなかったと。大学
   でこういうようなことが許されていいものでしょうか。一般社会でこ
   ういうことは許されるのでしょうか。私はこれを見て,こういう表現
   が出ること自身が非常に不思議に,違和感を覚えました。

甲第60号証を示す

 最後に裁判所に述べておきたいことを述べてください。

   私の母は医者でありましたが,私は母の患者さんを救おうとする強い
   熱意と骨身を惜しまない献身的な姿勢に心を打たれて医者になりまし
   た。私の人生の原点はそこにありますし,患者さんのために頑張ろう
   という熱意は今も全く同じであります。私は現在糖尿病に対する新し
   い再生医療開発研究に取り組んでおります。糖尿病の患者さんは潜在
   数も含めると1500万人近くになっており,重大な医学的,社会的
   問題になっています。特に小児に発症する糖尿病は深刻で,ご両親が
   インスリン注射をしています。中学生になると,自分で一日4回のイ
   ンスリン注射ができるようになりますが,幾らインスリン注射を続け
   ても,失明などの合併症の進行が防げないという大きな問題がありま
   す。この間題を解決できるのが,私たちが取り組んでいる新しい再生
   医療開発研究です。私たちの治療法は日本から世界へ発信でき,多く
   の患者さんを救うことができる画期的な治療法で,患者さんご本人や
   ご家族から多くの手紙や電話をいただいておりますし,多くの患者さ
   んがこの新しい治療開発を待ち望んでおられます。病気は待ってくれ
   ません。教室や他大学の多くの先生方と一丸となって取り組んできま
   したこの治療法も,いよいよ臨床応用の実現が近いところまでやって
   まいりました。治療開発を待ち望んでおられる多くの患者さんのため
   にもここで研究をやめるわけにはいきません。私はいろいろの圧力や
   制約を受け, 極めて厳しい環境下にありますが,教室の先生方と心を
   一つにして,研究,研究指導,学会,講演,執筆,ボランティア活動
   などに励んでおります。これはまず何よりも新しい治療開発を待ち望
   んでおられる多くの患者さんのために研究を継続・発展させ,その臨
   床応用を実現させるためであり,さらに,教室の多くの研究員,大学
   院生,留学生の方々, そして私を支援してくださる多くの病院や学会
   関連の先生方,多方面にわたる多くの有志の方々のためであります。
   さて,今回の事件について思うところを述べさせていただきます。私
   が研究所の教授のポストに応募したときには任期制ではありませんで
   した。採用内定後に突然, 任期制に変更されたのですが,これは再任
   可で, 普通に仕事をすれば再任されるということで同意いたしました。
   ところが, 同意したまさしく次の日に,同意の内容とは全く正反対の
   取り決めが行われました。この信義に反する取り決めを知ったのは,
   同意してから4年半以上経過した, 再任拒否事件のころであります。
   研究所では, 外部評価委員会の評価に基づいて再任を決めるという規
   則があります。平成14年に再任の審査があり,外部評価委員会が全
   員一致で私の再任に賛成の結論を出しました。ところが,前所長の画
   策により再任が拒否されました。外部評価は何のためにあるのか,外
   部評価の結論をなぜ覆すことができるのか,普通以上に仕事をしても,
   再任が拒否になるというのはまさしく異常な事態です。大学当局は,
   自治の名があれば, 各部局が信義に反する行為をしても,それを見過
   ごしてよいのでしょうか。真理を追求すべき教育,研究の場でこうい
   う人の道に反し,信義に反することが平然と行われてもよいのでしょ
   うか。京都大学では, 滝川事件以来大学の自治が守られてきたはずで
   すが, 今回の事件が正しく解決されないと,大学の自治が完全に崩壊
   してしまいます。京都大学ではつい最近尾池和夫先生が新しい総長に
   なられ,「優秀な研究者が大学に残っていられる仕組みさえあれば,基
   礎研究はちゃんとできる。彼らに不必要な手出しをしないことが京大
   の伝統です。」と,見識ある発言をしておられます。今回の事件の真
   相を解明し, 大学の自治を取り戻し,京都大学の名誉を回復するため
   に,ご尽力願いたいものです。私は,先ほどちょっと申しましたが,
   今月に送られてきた被告からの準備書面を見まして,まさに自分の目
   を疑い,何度も読み返しました。「仮に当該同意がなされるまでの手続
   が詐欺的なものであって」という表現がありました。こういう社会常
   識をはるかに逸脱し, 人の道に反し, 信義に反することを何の抵抗も
   なく平気で裁判所あての書面に記載するという被告の神経に大きな衝
   撃を受けました。尋常ではありません。これは社会常識や一般の方々
   の気持ち,正常な感覚をないがしろにする思い上がり以外の何物でも
   ありません。これでは, 詐欺的に同意をとっても,一たん同意をとっ
   てしまえば, 後は意のままであるということになります。神聖な学問
   の場で被告みずからが言及しているような詐欺的行為が行われてよい
   ものでしょうか。実に恥ずかしいことではありますが,京都大学には
   全く自浄能力がなく,信義に反する行為が行われても大学当局はその
   責任を問いませんでしたし,大学内には何らの救済手段もなかったの
   です。被告はまさに今,任期が切れたら終わりといって門前払いしよ
   うとしております。これは, 先進国として世界の模範となるペき法治
   国家にあるまじき行為だと思います。そこで私は,大学に救済の道が
   ない以上, 大学の自治と学問の自由を守るために,そして愚者さんの
   ために, 社会正義を信じ, 法治国家としての日本を信じて立ち上がり,
   司法に訴えたのです。被告の方々, あなた方がご自分の胸に手を当て
   られて, ご自分の本当の気持ちとご自分の良心に正直になれば,私の
   陳述に対して正当な反論をすることはできないと思います。私には何
   の曇りもないからです。これは傍聴席の皆様方や国民の皆様方にもき
   っとご理解をいただけるものと確信しております。私は社会正義とい
   うものを信じます。社会正義を実践していかないと,世の中は破滅し
   ます。教官の任期制が正しく運用されるために,大学の自治の崩壊を
   防ぐために, 学問の自由を守るために,社会正義を守るために,患者
   さんのために, そして日本の将来のために,何とぞ適正なご裁断を賜
   りますよう, お願い申し上げます。


被告ら指定代理人(横田) 乙第1号証を示す  ここに,任期を平成10年5月1日から平成15年4月30日までとされる  ことに同意しますと,記載がありますね。    うん。  ですから,あなたとしては,15年4月30日が来たらどうなると思ってた  んですか。    これはここに書いてあります,京大規定任期が切れて再任かというこ    とで,それで事務長からも,普通にまともに仕事すれば再任される,    私はもう普通以上に仕事をするという気持ちでおりましたし, それで,    任期が切れれば退職するとか,任期が切れれば終わるとか,そういう    説明は一切受けておりません。だから,任期で再任可であると, 普通    以上に仕事をするつもりでしたし,そういうことに関しましては頑張    れば再任されるということについては同意しましたが,任期が切れれ    ば退職するということには全く同意しません。  あなたは再任というものはどういうものだというふうに理解してたんですか。    今申しましたとおり,再任というのは,同意書の作成のときにおきま    しては,普通以上に頑張れば再任されるということで再任可というこ    とがありましたので,私はとにかく客観的な評価を受ける必要がある    と,この任期制に関しましては。それでそのときに同意の気持ちです    が,いわゆる教授というのは,本当に仕事をしない,あるいは怠慢な    教授,何もしない、極端な場合には再任されない場合もあるであろう,    しかし,普通に頑張っている,あるいは普通以上に頑張るということ    は, それで一定の評価を受けて再任されるという認識がありました。  そうすると,再任ということ自体,普通の例えば任期のない教授ではないと  いうことはわかりますよね。要するに,一定の期間が経過して,そこで切れ  てもう1度任命されるかどうかを仰ぐということじやないんですか。     それはもう全く違います。  あなたが乙第1号証の同意書を書いたという次の日に協議員会があったとい  うことですけれども,あなた自身はその協議員会が開催されることについて  通知等は何か受け取ってないんですか。オブザーバーとして参加されません  かという通知は受け取ってませんか。     私自身は,4月20日の同意のときには,協議員会のとき私は教授は     内定しておりましたけど,教授としてまだ採用されてませんので,出     席してないと思います。  通知を受け取ったか受け取ってないかを聞いているんです。     そういうことの記憶は全くありません。  通知を受け取ったかどうかもわからない。     通知を受け取ったかどうかに関しては私は記憶はありません。  でも,大事な関心があるんじやないんですか。     いえ。要するに,これは事務長から非常にせかされて書いた,あした     の会議に必要であるということでしたので,これは何らかの手続に必     要だということで,私たち大学の教官は,辞令が5月1日で決まって     ましたので,手続上の会議というのはしょっちゅうあるわけです。だ     から,そのことを一々そういう会議は気にしないのが一般であります。 甲第8号証を示す  先ほど主尋問でも出てましたけども,3条に学内の教育,行政の責献,社会  的貢献に関するものを出してくださいという規定がありますね。     はい。  これはよろしいですよね。     はい,社会的貢献ですね。  あなたの方としては,乙第1号証の同意事をつくったときに自分は再任され  るものだということを前提にお考えになったようですけども,ただ,平成10年  5月1日の時点で,要するに,将来あなたがどのような教育あるいはど  のような社会的な貢献をするのかわかってないわけですよね。ですから, そ  れは任期の定められた期間内の経過を見ないと平成10年5月1日の時点で  は何もわからないじやないですか。    いえ,そうではありません。とにかく私は,同意のときには普通の仕    事ということで,だめな,実績を残さない場合には再任されないとい    う気持ちは。普通以上に頑張るつもりでいましたので,当然頑張るつ    もりでいましたので。  あなたとしては,普通に仕事をしていれば,いずれちやんと再びその職につ  けてもらえるんであろうと,そういうふうな認織でいたということになるわ  けですか。     いいえ。私はこの再生研究所の教授に応募したのは,患者さんに対す     る治療開発を完成させようと,私何回も言ってますように, それは医     者の気持ちとか学者の気持ちを無視した発言だと思います。そういう     気持ちで応募しているわけですから。 原告代理人(鹿藤) 今の尋問で,普通に仕事をしていれば採用されるであろうのごとき質問は前 提を誤ってますから,質問を変えてください。そういうことを言われてないで す。そういう前提になってないです。 被告ら指定代理人(横田) 甲第14号証及び甲第15号証を示す  甲第14号証の2枚日のII 1.(1)という項目のところで「ES細胞に関するNature biotech論文がRejectされCell Biologyに投稿準備中」という記載があります ね。    はい。  甲第15号証の真ん中下に,ES細胞からの分化誘導研究に関してというところ で,「論文投稿(Nature Biotechnology)」,「論文投稿中(Jounal of Cell  Biology)」という記載がありますね。    はい。  端的に答えていただきたいんですが,この論文というのは結局学会誌か何か あるいは研究誌にレビュー,論文掲載されたことがあるんですか。    これはPancreasというジャーナルに採用されまして、今非常に評価さ    れて,引用件数は非常にふえてます。非常に世界じゅうで引用されて,    評価されております。その最初のいろんなことですが,大体非常に新    しい発見をするときは,そういうペーパーを出してもなかなか海外の    ジャーナルは信用してくれないと。だから,最初の論文,いろいろず    っと積み重ねがあった場合には割と採用されやすいですが,新しい研    究成果というのはいきなりたまたま出ても,それをなかなか信用しな    いという面があります。それはもう学会の先生は全部知ってます。だ    から,本当に重要な仕事というのはなかなか最初に採用されるのが非    常に難しい,それは医学会,研究者の一般常織であります。  今掲載されているというふうにおっしやったのは,両方の論文なんですか。    Pancreasというのはアメリカのれっきとしたジャーナルです。膵臓に    関する一番権威のあるジャーナルです。世界的なジャーナルであります。 裁判長 甲第15号証の上の方にPancreasとありますね。これですね。    これは別の論文であります。その後にアクセプトされました。 被告ら指定代理人(横田)        よくわからないので聞きますが,甲第15号証でいうNature Biotechnologyと Journal of Cell Biology にはレビューされているのかされてないのかと いうことについてはどうなんでしょうか。    それは投稿中という言葉が恐らく抜けていると思います。先ほど申し    ましたとおり,いろんな雑誌に出しましたが,実際に評価はされてい    るんですけど,そのリジェクトの理由はわからないんですが,簡単な    リジェクトの理由で全部それはリジェクトされてます。次から次に出    していったわけです。そういう非常に積み重ねがあるわけです。なか    なか理解してもらうのが難しくて。最終的にアクセプトされた後に今    現在非常に高い評価を受けているわけです。  ですから,そのNature BiotechnologyとJournal of Cell Biologyについて は現時点においてもレビューされてないと。    いや,それはもうリジェクトされてます。リジェクトというのは,出    した後に拒否されてます。 裁判長  投稿は既に終わっているわけですか。  はい,それはもうとっくに終わったときの,そうです。                             以上

阿部泰隆教授(神戸大学法学部)のコメント 

主尋問では、井上先生に100%理があり、京大の腐敗、ごまかしが白日の下にさらされた。

この反対尋問は、前半は、同意書の件で、無意味な尋問である。協議会へのオ ブザーバーとしての通知の件も、井上先生が出席したという、裏でも取った上 での尋問かと思ったら、そうではない。後半は、わかりにくいが、井上先生の 論文がrejectされた価値のないものであるといいたいところ、立派な雑 誌に載ったとして反撃され、それで終わったのである。井上先生に聞けば、相 手側のいう論文とは、ES細胞からの膵島細胞の樹立に関する論文で、これは、 まず、Nature Biotechnologyに投稿したところ、詳しい理由説明がなされない ままにrejectされ、ついで、 Journal of Cell Biologyに投稿したところ、 これも、ほとんど理由らしい理由も明示されずに、rejectされた(平成14年 の時点)が、Pancreasに投稿したところ、非常に高い評価を受け、majorな criticismは全くなく、スムーズにアクセプトされ、平成15年7月に、 online publicationされた。この論文は、糖尿病に対する画期的な再生医療 の開発に繋がる重要な論文として、現在、世界的に多く引用されている。

別の論文と言うのは、相手が見せた書類に、PancreasとTransplantationと二 つの論文名のみの記載があったので、混乱するが、その時に相手が見せた書類 の前後関係から、これは、ESとは全く別の研究内容で、カプセル化膵島に関す る研究が記載された論文だということである。この一連の研究は、すでに、 PancreasとTransplantation(どちらも一流学会誌)の両方に何遍か掲載され ている(もちろん他の一流学会誌にも)。

私が反対尋問するなら、どこにも載っていないということを調査の上で行うは ずである。

これで、反対尋問は全て失敗し、持ち時間30分のところ、10分で終わった。 善意に解すれば、訟務検事も、京大を勝たせるのは正義に反するので、形だけ 仕事をしたふりをしているということではないか。

これで完勝である。3月31日4時の判決が待ち遠しい。