AcNet Letter No 22【3-2】(2003.11.11発行)
メッセージ
阿部泰隆氏(神戸大学)
yasutaka@law.email.ne.jp
京都大学再生医科学研究所教授井上一知先生が、昨年一二月再任拒
否され、この五月一日、五年の任期切れで、失職扱いされて、裁判
で争っています。
再任審査において、高名な学者七名の外部評価委員が、「国際的
に平均」であり、今後の活躍に期待するとして、全員、再任に賛成
したのに、教授会では、無記名投票の結果、再任賛成者が過半数に
なりませんでした。新規採用と同じつもりでしょうが、外部評価に
「基づく」というルールを無視していると思います。この外部評価
の過程では、前所長が、「国際的に平均」を単に「平均」に書き換
えさせようとしたことなど、権力の濫用が明らかになっています。
そこで、再任拒否の理由を説明せよと、われわれは主張していま
す。法人化法の成立前に、前記の研究所の中辻現所長が、小生の意
見は、一方的として、法廷で説明すると言っていたのに、法廷では、
任期切れと言うだけで、外部評価では高く評価されているのに、な
ぜ再任拒否をしたのか、説明しません。大学人としてあるべき態度
でしょうか。
そこで、京都地裁と大阪高裁で執行停止(仮の救済)の申請をし
ましたが、裁判所は、任期切れで失職したのだから、争う道がない
という態度です。今、京都地裁で、本案訴訟である、取消訴訟を行っ
ています。先の執行停止を却下(門前払い)した同じ八木良一裁判
長・判事が担当していて、次回一二月上旬には門前払いするという
方向に見えます。
まず最初の争点は、任期満了による失職なのか、再任拒否という
違法な行政処分により任期満了に追い込んだのか、あるいはもとも
と任期をつけることができない場合に1号任期制にしたものである
とか、公募時には任期制とは書いていなかったのに、あとから任期
への同意を求めたという点での違法=瑕疵などを理由に、任期が適
法についていなかったから、瑕疵があるという、法律論です。後者
の説を採用されないと、この任期切れがいかに無茶苦茶であろうと、
審理されません。ということで、権力濫用の実態が裁判で明らかに
なりません。
このままで行けば、任期制法を悪用して、気に入らない同僚を追
い出すことが可能です。これでは、同僚との平和外交以外には、何
もしない教授が増えます。学問の活性化を目指す任期制法が逆に学
問を殺すことになります。戦前文部省が大学人事に介入した滝川事
件がありましたが、その七〇周年に当たる本年、京大が教授の学問
の自由を抹殺するとはなんという歴史の皮肉でしょう。
そして、京大内部でなぜこの問題を告発する動きが見えないので
しょうか。
井上教授は自分の問題もさることながら、今後の日本社会に悪例
を残さないように頑張っています。
なんとかご支援いただければ幸いです。
補足:
再生医科学研究所再生医学応用部門に関する申し合わせは1998
年4月21日付で、これは井上教授が採用内定して、同年5月1日
に発令される直前にあとから決まったもので、それに合わせて20
日に同意書を事務官が取りに来たものです。公募のさいには任期制
のルールは示されていませんでしたし、同意のさいにこの申し合わ
せも知らせていませんでした。
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