都立大に関する文部科学省への要望書への賛同署名を寄せられた皆 さん、この署名活動に協力し、注目していただいた皆さん 去る1月26日、私は文部科学省に出向き、要望書と署名者名簿を 添付資料とともに官房総務課法令審議室の係りの方に提出してまい りました。皆さんのご協力に対するお礼とご報告をここに申し上げ ます。 この要望書に対しては、昨年12月31日より1月24日までの間 に私の予想をはるかに超える1280名の方から賛同の署名を頂き ました。署名頂いた皆様の所属機関は国内の大学に止まらず、国内 の公的、私的研究機関、海外10ヶ国の大学、研究機関に及びまし た。この広がりは都立大の問題が真理の探究を志すあらゆる研究者 にとっての普遍的問題を孕んでいることを教えてくれると同時に、 個々の研究者や研究機関が決して孤立した存在ではなく、世界に広 がる見えない知のネットワークの中に存在し、見守られていること を改めて教え、大きな勇気を与えるものでした。皆さんのご支援、 ご協力に深くお礼申し上げます。 私が提出しのは、要望書、署名者名簿、寄せられたメセージの中で 期限内に提出のご了承が得られたもの、そして添付資料として提出 した東京都から開示された「河合塾への委託内容」です。総務課の 係りの方は「直ちにコピーを大臣室と高等教育局に送る」と言われ たので、「大臣と高等教育局の皆さんには誇りと責任感を持って行 動してほしい」と伝えていただくよう申し添えました。 これで都立大問題は、少なくとも形の上では、都の問題であると同 時に国政レベルの問題となりました。今後重要なのは集められた研 究者の声を生かし、政治家、ジャーナリストへの働きかけを通じて 都立大問題が日本の学術研究と高等教育の将来に対して大きな意味 を持っていることを広く国民に訴えることだと思います。私も現在 個人的に議員に働きかけていますが、微力であり、どのような結果 になるかは分かりません。皆様にも、何らかの接触をお持ちの議員、 メディアがあれば、是非働きかけていただくようお願いします。 見えない研究者のネットワークが今回の署名によって見えるように なったのだとすれば、そのネットワークが外部社会に対して働きか け、より大きな理解を得る努力をするのが次の課題だといえるでしょ う。今回の署名の報道が決して大きなものでなかったことに示され ているように、これは困難で時間のかかる作業ですが、研究者が社 会の中に自由な研究が可能な空間を確保しようとすれば決して避け ることの出来ないものだと思います。また身の回りの人々への直接 的な働きかけも極めて重要だと思います。 最後に添付資料の「河合塾への委託内容」について一言のべたいと 思います。この資料は研究者が外部社会に理解を求める際にどのよ うに語るべきかについて重要な教訓を示しているように思います。 簡単に言うと「社会のニーズ」という通りの良い表現を我々は安易 に使うべきではない、と言うことです。この資料の「2−(2)− イ−(ii) コースの設置趣旨・必要性」には次のように述べられて います。 高校生にアンケート調査を実施し、都市教養コースのニーズを 探る。それらの結果を踏まえ、設置目的、社会的背景及び設置 の必要性などを明確化し、教育上の理念、目的、卒業後の進路 を踏まえて人材育成像を具体的に記載すること。 これが都が河合塾へ委託した業務の具体的内容ですが、もし大学が 社会に対してその存在意義を説明するに際して「社会のニーズに応 える」という言葉をキャッチワードとして用い、そして「社会のニー ズ」が最も直接的に「社会が今自覚的に意識している欲望」と解釈 されるなら、ここに言われているように高校生へのアンケートに基 づいて大学を設計することにどのような誤りがあるのか説明するの は極めて困難になると思います。学術研究についても同様です。従っ てたとえ時間がかかるとしても、学術研究と高等教育がそれ自身で 持っている価値をその具体的内容に即して語り続けることが今私た ちには必要と感じました。別の観点からすればそれは社会が忘れて いる価値を思い出させるという作業です。残念ならがそうした作業 が不可欠な時代に私たちが今生きているというのが一連の出来事を 通じて私が実感したことです。 インターネットというメディアが元々大学において初めて本格的に 活用され始めた事を考えると当然かもしれませんが、自立し独立し た研究者が相互に結びつき、個人の独立性を損なうことなく力を合 わせる上でこのメディアがいかに力を発揮するかを改めて思い知ら されました。皆様どうもありがとうございました。 2004年 1月31日 筑波大学 鬼界彰夫 |